人類の進化(持久力の方向)

人類文明は幾たびもの苦難を乗り越え発展していった。
政治的対立・・人工爆発に伴う食料危機・・・大気汚染・・核廃棄物・・・
全てを強大なテクノロジーでねじ伏せたホモサピエンスは宇宙へとその版図を
広げて行ったのだ。
内惑星には次々と植民地が築かれ、資源の枯渇は回避された。
地上は数千年ぶりの静寂を取り戻し、自然と環境は完全に管理された。
だが・・・だが本当にこの選択は誤っていなかっのだろうか?
今や爛熟した人類文明を前にあなたはフッと小さなため息をつく。
少なくとも滅びの道は、破滅に向かって開かれた巨大な顎にだけは捕らわれずに
すんだ。
幾多の生命がその絶頂期で滅んだのに比べ人類は遙かにうまく進化したのだ。
しかし本当にこれが・・・この道が絶対無比の進化の本流だったのだろうか?
暮れなずむ都市のスカイラインを眺めながらあなたは思いを巡らし続ける・・・・
人類の進化(攻撃の方向)

地上には殺意と憎悪が渦巻き、天空を邪悪な炎が焦がしている。
罵声と悲鳴が交錯し、甲高いサイレンの音がそれを押し潰す。
東西の経済格差、北と南の意識のずれはついに熱い戦いをもたらしたのだ。
銀色の矢は完全な死と滅亡を乗せて飛び交い、毒々しい真紅の炎は全てを
焼き付くした。
黙示録に記され、幾多の預言者が口にしてきた終末の時が訪れたのである。
だれもが自分だけは正しいと信じ、自分だけは助かると信じた。
だが死神の手にした大鎌は無慈悲であると同時に平等だった。
肌の色も貧富の差も、信じている神の名の違いさえ何の意味も成さなかったのだ。
幾ばくかの時が過ぎ、死を運ぶ炎が治まると次には毒に満ちた雨が地上を濡らし
始めた。
何処か遠くで・・・常世ではない異空間で誰かのすすり泣く声がした。
だれかの低くこもった笑い声がした。
だがこの惑星にそれを聞くもの・・
その泣き声と笑い声の意味を理解出来る生命は何一つ残ってはいなかった。
46億年の歳月の果てにこの惑星は完全に死に絶えたのである。
人類の進化(体力の方向)

時は永合の輪廻の中をたゆたい、
星々はそのところをゆっくりと変えていった。
火を手にいれ言語を我がものとしたあなた達はかってどの生物も成し得なかった
繁栄を謳歌している。
陸に海に、いや空にさえあなた達を脅かす存在は無くなっている。
野蛮だった過去。
単純で原始的だった過去などもう誰も思い出しはしない。
だが、スモッグに霞んだメガロポリスの夕日を見ながらあなたはフト何かを
忘れている事に気づくのだ。
「本当にこれでよかったのだろうか?
人類は、ホモサピエンスの進化は果して正しかったのだろうか?」
そんなあなたの問いに答えるものは誰も居はしない。
道行く人は突然立ち止まったあなたを怪訝そうに振り返り、
また足早に過ぎ去って行く。
世界情勢は目まぐるしく変わり、経済と政治と言う名の怪物が総てを押し流す現代
あなたはもう忘れてしまったのだろうか?
ヨウラン期の地球のあの暖かい海を、シダやソテツの生い茂った原始の密林を?
偉大な生命はすべて滅び去り、歴史と忘却の彼方へと消えて行った。
だがあなたや私達にもいずれ滅びの時は来るのだ。
46億年の地球史・・・
そしてその頂点に立った人類・・・
もしもう一度やり直す事が出来るなら・・・
一瞬脳裏をよぎった考えを打ち消してあなたは雑踏へと消えて行く。